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天下一舞踏会 決勝戦Ⅱ

  : 

今日も生と死の間に、揺れてます。

ごめん 

私は謝ってばかりである。
私が謝る理由は、ただ一つ。
相手が怒っている様子だからである。
私が謝り始めたのは、子どもの頃からである。
私がした行為に対して、周囲が「謝れ!」「謝れ!」の大合唱が起こるためである。その場ではどうしていいかわからずに、ただ茫然としていた。ほどなくして先生が教室に戻ってきたため、私への大合唱は収まり、周囲は散会した。
私は夕飯の時にそのことを家族に話すと、「ごめんね」とか「ごめんなさい」と言いなさいと諭された。
なるほど、そういうものなのか。
「謝れ」と言っているときは、相手が怒っているという状態だから、その時には謝罪を表明する「ごめん」というのは当然なんだそうだ。

あくる日、友だち(?きっとそうだったんだろう。相手も私をそう言っていたし)の消しゴムを拝借した。私の消しゴムがチビてきて使いづらくなり、そろそろ買い替えようと思っていた。ちょうどよく、隣の席の友だちが、昨日新品の消しゴムを買ったことを教えてくれた。その友だちが席を離れたとき、使い心地を試してみたく拝借したのだ。
「あれ?消しゴムがないぞ」
「ここにあるよ。」
私は事実を、友だちの彼に教えてあげた。
すると友だちは、私が握っていた彼の消しゴムをひったくるように奪った。
そのときの友だちの彼の表情は、まるで私に殴り掛からんばかりに歯を食いしばって、睨んできた。
まさか彼は、私が彼の消しゴムを自分のものにするとでも思ったのだろうか。そんな力づくで奪わなくても、言えば返すのに。
友だちの彼は消しゴムを一瞥すると、金切り声を上げた。
「おい!どうしてカド使ってんだよぉ!」
新品の消しゴムであれば、どこも角ばっているのは当然のはずである。私が友だちの彼の消しゴムを拝借したのは使うためなのだから、私が持っていた時点でそこまでわからないはずがないと思うのだが。
それなのに、友だちの彼は涙ぐみながら、私の座っている椅子を蹴った。友だちの彼が蹴ったのは椅子だったので、私は驚きはしたが、それ以上の衝撃はなかった。
友だちの彼の頬に、一粒の涙を認めた瞬間、彼は自分の机に突っ伏してしまった。
するとまた、先日と同じ大合唱が始まったのだ。
ああ、これが家族が教えてくれた「相手が怒っている状態」だと判断できた。

なので私は、大合唱している周囲に対して「ごめんなさい」と言った。
すると周囲は、友だちの彼にも「謝れ」と言っている。
「え?!」っと、私は今日一番の驚きをおぼえた。さっき友だちの彼に椅子を蹴られた時の比ではなかった。
それは家族が言っていた「相手が怒っている状態」とは一致していないからだ。
「怒っている」というのは、とりあえず相手が大声を上げている状態ではないのか。
友だちの彼は、怒っているどころか、涙を流していたから「泣いている」のではないのか。もちろん友だちの彼は、大声どころか無言である。
とまどう私に対して、周囲はさらに怒り出したようだ。私の肩を掴んで揺さぶったり、顔を近づけてきたりと。
ついに私は、肩を引き上げられ、友だちの彼の横に立たされた。
「謝れよ!」
私は何となく理解した。怒っている状態というのは、周囲に伝播するものなのだと。
伝播した結果、本人が何らかの理由で怒っている状態になれない場合、代わりに怒る人が出てくるんだと。
この場合、怒るべき友だちの彼が泣いているため、周囲が友だちの彼の代理人となって怒っていることになる。
私はこの「怒りの伝播」とでもいうべき"仕組み"をはじめて理解した。
友だちの彼の横で立ち尽くす私は、"仕組み"を理解した上で、彼に向かって「ごめんね」ということができた。
ここで「ごめんなさい」と「ごめんね」を使い分けたのにも意味がある。
複数に対しては「ごめんなさい」、一人に対しては「ごめんね」と、自分なりにアレンジしてみた。
私の発言に対して、友だちの彼は突っ伏しながらも、こくん、とうなずいた動作があったことを認めた。

この「ごめん」という発音に込められた意味は、いまだ分からない。
当時は子どもながらに、「ごめん」という発音には他の言葉にはない特別な力があるように思えて、やたらに多用していた。
朝、友だちに会ったら「ごめんね」、相手が先生だったら「ごめんなさい」(敬語だということは知っていたので)。ご飯を食べる前には「ごめんなさい」、お年玉をもらったら「ごめんなさい」。
そのうちに周囲は、私が彼らの方に行くと、明らかに逃げていくのがわかるようになった。


(つづかない)

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